リングに見立てた舞台で、拳の代わりに自作の詩を朗読しあって勝敗を競う「詩のボクシング」=キーワード。北秋田市の精肉店で働く鈴木正長(まさ・たけ)さん(33)が25日、東北代表として全国大会に挑む。失敗談や劣等感、郷土への思いをユーモアに包んで伝える。
登下校の子どもにあいさつをせねばと声をかけたところ このルックスが災いしてか 防犯ブザーを取り出した子どもがいた
6月中旬、秋田市内のカラオケ店。鈴木さんが身ぶり手ぶりを交え、声を張り上げて詩を朗読していた。
自作の詩「それでもボクはやりたくない」の一節だ。良かれと思って子どもやお年寄りにしてきたことが、次々裏目に出てしまう自分をつづった。
鈴木さんは北秋田市米内沢の精肉店の長男として生まれ、中学、高校と相撲部で活躍した。中学3年のとき、県大会で優勝した。元横綱の大鵬親方がスカウトに来たが、親の反対で力士の道を断念,ブランド。19歳から曽祖母から続く家業を手伝っている。
「4代目」として店番をする日々は心躍るものではなかった,パネライ。同級生は次々と都会に出て行く,ロレックス。過疎や高齢化が進む商店街に取り残された気がした,オメガ。
女性と出会う機会も少ない。「親に孫の顔を見せたい」と思い、各地のお見合いパーティーに50回以上参加したが、たいてい会話が弾まず、意中の女性と心が通わない。
身長172センチ、体重100キロで筋肉質。ベンチプレス代わりの漬物石で鍛え上げた肉体が女性にウケないのか。地方の「自営業者」の肩書が重いのか,腕時計。
うつうつと過ごしていた猛暑の昨年夏、新聞の折り込みチラシが目に入った。「詩のボクシング秋田大会」の参加者募集のお知らせだった。10年以上、毎日欠かさずノートに書いてきた日記を読み返してみた,腕時計 コピー。恥ずかしかったこと、悲しかったこと、切なかったことが次々とよみがえる,コピー。気持ちがあふれ、別のノートに詩として書き留めた。
ある日曜日の午後、秋田駅前の婚活パーティー会場に着くと、タイミング悪く妹から電話がかかってきた,時計。妹に対して、つい愚痴を言ってしまう。
この前(妹の)お友達に兄さん(鈴木さん)のことをうちの兄さんはゴリマッチョですとか脱輪した車を持ち上げたとか言ったらしいけど、やめてよぉ~
その長話を、知らないうちにパーティー参加の女性陣に聞かれていた、というのが続くオチだ。
この詩を含め3作品を準備し、東北から出場者が集う7月の秋田大会に臨んだ。審判や観客の反応は想像以上によかった。「つらいことや恥をかいたことが強みになった。等身大の言葉が伝わり、憑(つ)きものがとれたように心が軽くなった」
決勝では、秋田内陸縦貫鉄道に乗ったときの、郷土への思いを披露した。
学生の頃は車窓から流れる山や川ばかりの景色を眺め、何もない所だとひどく嫌っていた。今は何もない所だから心にスペースが生まれて景色が優しく、ディーゼルエンジンによってゆっくり進む揺れに楽しい方言が心地よく体に染み入ってくる(「ノスタルジックトレイン」)
全国大会の出場者は各地から選抜された16人。鈴木さんは新作を携えて臨む。
25日午後6時、横浜市の関内ホールで、ゴングが鳴る。(矢島大輔)
■キーワード■
詩のボクシング 老若男女問わず2人がリング上で自作の詩を披露しあい、複数の審判員が観客への伝わり具合をみて勝敗を決める。持ち時間はそれぞれ3分のトーナメント方式。詩人の谷川俊太郎さん、作家の島田雅彦さんらが参加、1990年代後半に広まった。2001年に初めて全国大会が開かれ、女子高生が王座に。教育現場でも活用されている。